ゲノム(Genome)

映画「ジュラシック パーク」は化石化した古代生物の一部から、遺伝子工学の技術を駆使してその生物を再生させた事から話が始まる。現在、それを可能ならしめるような「ゲノム解析」という研究が生命科学の最先端の分野で世界的に行われている。
「ゲノム」とは、ある生物をつくり生存させるのに必要な遺伝情報物質である一揃いの染色体をいうが、いわば、その生命体を構築し生存を維持していくための設計図と言ってもよい。つまり、一つの細胞よりさらに小さい単位に、その生物を形作り維持生存させていくことに必要な情報が全て書き込まれているのである。「ゲノム解析」はその遺伝情報の構成要素であるDNAの塩基配列を解読する事である。人間のゲノムはヒトゲノムと言われ、約30億の塩基対よりなっているが、現在その一割程度の解読がなされているようである。
 ところで、我々が日々携わる設計情報は常に何百枚もの設計図書や仕様書等に集約されるのだが、それらが例え一枚の光磁気ディスクに収められようとも、情報伝達の媒体としてのゲノムの集約度や巧妙さには遠く及ばない。生命体のゲノムは細胞内のDNAとしてその生命体のどの部位にも内在化されているのに比べ、我々が扱う設計図は常に造る対象物から外在化された存在でしか無く、一旦失われると、その対象物がそっくり現存し解析分析出来ない限り、それを構成する情報を復元することは不可能である。生命体の組織の一部からクローンを生成すると言うような具合にはいかない。
 人の手で造る物も、その生成に係る情報をゲノムのように集約化された形で巧妙に伝えることができないものかと情報センターに携わる者としては、考えてみたりもする。

[アール・アイ・エー  大坪 明]