■第106回■ ワープする宇宙

 近年、宇宙論や時空の探求にかかわる画期的な学説が提唱されている。私たちの4次元時空に重力が介在する次元を加えた多次元時空理論である。「ワープする宇宙」は提唱者であるハーバード大学のリサ・ランドール教授が、平易に解説したベストセラーだ。重力など4つの「力」の統一論の構築や、ビッグバン、ブラックホール・・・など、20世紀以来の難解で不可思議な物理・天文現象の解明の突破口として期待されている。スイスのジュネーブ近郊の地下100mには3500億円をかけた全周27kmの、大型素粒子加速器の研究施設がほぼ完成し、理論の検証が始まっているそうである。
 現代の科学・技術は素人の理解を寄せつけないブラックボックスである。建築界の構造設計の偽造をはじめ食品、医薬など枚挙にいとまのない不正の温床は、ブラックボックスの落とし穴でもある。
 中でも理論物理学は際立った隔絶性をもっており、説明責任を果たすことは重要である。ランドール博士は、深遠な理論の解説に日常のエピソードや比喩を織り交ぜて、考える楽しみを読者と共有できるよう情熱を傾けている。100年前の相対性理論に始まり最先端のひも理論までエスコートし、600ページの著作の頂点で自らの多次元時空理論を開示している。
 今日の位置情報システムのGPSに一般相対性理論が応用されていることはあまり知られていない。SFの描くタイムマシンなどを想起しながら、新理論の意外な開花を夢みたいものである。

[建築情報委員会 山田 宗彦]