顧客満足

これまで我々設計者は、地震に対しては基準法の最低限の要求「生命の保護」を守るように設計してきた。しかし、ここ数年の大地震による建物の被害をみて、それ以上の性能を求める顧客も増している。そのような要求に対して、我々設計者は顧客と対話できる尺度を持っているであろうか。
そこで、ある研究(科技振興事業団の特定研究)を紹介したい。
その研究は、建物の耐震性能とコストに対する顧客の満足度に関するものである。RCマンションの玄関周りの1/2模型を作り、地震時を想定したひび割れ等の損傷状況を一般の人に見せ、耐震性、分譲コスト、補修コスト、地震の大きさの相関関係についてアンケート調査を行っている。
それによると、5%アップ程度のコスト差なら地震に強いマンションを選ぶという意見が多く、その一方、購入時に重視するのは、@立地条件 A分譲価格 B居住機能性 C耐震性 D見た目の順で、耐震性は二の次、三の次という矛盾した結果となっている。また、多少補修費に差があっても分譲価格の安いマンションを選ぶようである。それらの要素を総合して顧客の半数以上が満足するには、大地震に対して目標層間変形角が1/133以上が必要という結果であった。通常、設計では極めて稀に発生する大地震に対して1/100程度を目標にしているが、顧客の要求性能とは明らかにずれがあるようだ。基準法どおりに設計すると半数以上の顧客は不満なのである。
品確法・住宅性能表示制度では作用する地震の大きさを変えることで建物性能を決めているが、地震後の損傷程度などの「建物のふるまい」の尺度の方が理解しやすいのではないだろうか。今後は顧客の要求性能を引き出し、その性能とコストを整合させた建物づくりが必要となってくるであろう。

〈潟tジタ建築設計センター 中原隆雄〉