アフォーダンス(affordance)


 私たちは、日常場面でさまざまな行動をするときに、外界の“もの”が持つ性質や特徴をとらえて、それに対して適切な行動を取っています。この“もの”の持つ性質が、アフォーダンス(affordance)と呼ばれます。これは、英語の“afford”という動詞(〜できる、〜を与える の意味で使われる)からつくられた言葉です。
従来の認知科学では、人間の目や耳のような感覚器官を通して環境から刺激を受け取り、それが神経を伝わって脳が情報処理を行い、意味のある情報に加工している、と考えられてきました。ところが、アメリカの認知科学者ジェームズ・ギブスン(J.Gibson)は、この考えかたをひっくり返す画期的な理論を唱えたのです。つまり、「情報はすでに、私たちの周りに充満している。環境にはそれ自体でおのずと意味を持った情報が存在している。だから、知覚というのはそれらの情報を直接手に入れる活動であり、受けた刺激を頭のなかで情報に加工することではない。」というのです。
たとえば、同じような円柱形をしたコップと丸イスとがあったとします。そのとき、私たちは、「円柱形の物体が2つあり、一方は高さ10cm、直径5cm、もう一方は高さ40cm、直径30cm程度」というような知覚をするのではなく、「手にもてるくらいの円柱形のものと、座れるくらいの円柱形のもの」というように、私たち自身の日常生活(生態)と結びつけて知覚します。私たちは、コップやイスの物理的な形を知覚するのではなく、それらの事物が私たちに「与えてくれる特性」、すなわちアフォーダンスを知覚するのです。
人間が、モノや環境とのあいだで何気なく行っている経験の豊さや多様さ、人間がもっている全体的な経験そのものに深く入り込んでいくような方向へ、これからの建築やインテリアは向かっていくのが良いのではないでしょうか。

〈大阪市立都島第二工業高等学校 山口繁雄〉