複雑系

いくつかの用途を一つの建物にまとめた複合用途の建築物がふえているが、最近はそれが大規模化すると共に、多様な機能が複雑に混じり合ったものがみられる。大型のショッピングセンターや駅前再開発ビルなどに多い。楽しさや新しい可能性をつくり出すことを期待するものだが、一方でわかりにくさや新たな危険性を生み、効率を低下させることも多い。
これはかって建築計画が単機能の建築物を念頭において追求してきた考え方を軽視する結果になるが、一方でこれに代る手段・手法は明らかにされていない。
ところで「複雑系」というのは経済学で生まれた概念で、現代の複雑な経済現象を解明しようとするものであった。支配的な条件を見出して因果関係を単純に説明するといったことが出来なくなったのである。さまざまな複雑な要素が多様にからみ合って成り立っている現代の諸現象をとらえようとするこの考え方は、経済以外の分野でも注目されるようになり、工学の分野にも及びはじめている。まだ建築の分野では本格的に取り上げられていないようだが、注目してよいと思われる。
はじめの話に戻って、一つの例として大型店の大規模で複雑なフロアーを考えてみる。限られた目的を持って訪れる慣れた客以外は、案内図や案内表示だけが頼りであり、戻るルートも見失いがちである。エスカレーターやエレベータの位置は不確かであり、階段や便所の位置は一層わかりにくい。高齢者や行動不自由な人にとってはさらに問題が大きくなる。こういったことにつながる研究は既に進められているが
、実務家も関心を持たざるをえないことである。
関心のある方におすすめする図書
『〈ものづくり〉と複雑系』
齊藤了文著 講談社選書メチエ \1700 

[元・近畿大学 片倉健雄]