コンバージョン

今更取り上げる必要を感じないほど、建築雑誌や業界紙でお目にかかる言葉であるが、不思議とこのシリーズで取り上げられていなかったので紹介いたします。
「コンバージョン」とはそもそも、転換、改造、改宗、換算などを意味する言葉であるが、建築の世界では、「建物用途の変更・転換」を指す言葉として近年使用され始めた。オルセー美術館のように駅舎を改修して転用した例は以前からあったし、それ程有名でなくとも国内でも、工場や倉庫を商業施設等に改修し再利用した例があったが、当時は、少なくとも我が国ではコンバージョンという呼び方はされていなかったようである。
バブル崩壊後の減速経済のもと新築物件が減少し、また、少子高齢化の進展によりある種の施設ではだぶつきが生じたことによる改修(リニューアル)需要が増加した。一方で、政府の都市再生の施策とも関連して、規制緩和による大規模都市開発を促進する反面で、東京のいわゆるオフィス2003年問題に見られるように、主として古いオフィスビルが空室で取り残される現象が増加しつつある。そこでオフィスを住居に用途変更(コンバージョン)することにより、空きオフィス問題を解消し、郊外に散った人々を再び都市に呼び戻し都市の活性化につなげる一石二鳥の方法として脚光を浴びることとなってきている。その結果、いまや「コンバージョン」といえばオフィスの住居への転用を指すような感があるまでになっている。
現実には法的な問題や施工技術面でいろいろ検討の余地があるようだが、無駄なスクラップアンドビルドを控えて地球環境を保護し、有効な建築ストックとして活用していく意味でも、一般建築を含めてコンバージョンがビジネスとして定着することが望まれる。

[安井建築設計事務所 森田 芳次]