強化ガラスは、フロート板ガラスを軟化点付近の摂氏約700度まで加熱した後、ガラス表面に空気を吹き付けて急冷して製造するため、表面が内部より先に硬化する。その後内部が徐々に冷えるため表層に圧縮応力層が、内部にそれとバランスした引張応力層ができる。強化ガラスは同じ呼び厚さのフロートガラスに比べて、約3倍の耐風圧強度がある。
しかし、強化ガラスは、外から力が加わっていない状態で不意に破損することがある。微小な傷やガラス内に残存する不純物(硫化ニッケルNiS)の体積膨張が起因となり応力バランスが崩れて、ガラス全面が一瞬にして割れて、粉々になる(爆裂)。
メーカーのカタログでは「ごくまれに、ガラス中に残存する不純物に起因するキズによって発生する不意の破損がある。」と警告している。
この不純物は、硫化ニッケル(NiS)で、ガラス製造時での混入は、製造技術上避けることが難しいとされている。
NiSの結晶は、温度に応じて変化する。ガラス溶融時に含まれていた高温で安定したα-NiSは、温度が下がるにつれて低温で安定したβ-NiSに変化する。しかしごく一部はα-NiSのまま残り、強化の熱処理でもそのままで、取付後、環境温度の変動でα-NiSからβ-NiSに変化する。その結果体積が膨張し、強化ガラスの応力バランスが崩れて、破壊に繋がる。
NiSを製造過程で発見することは不可能に近い。そこで、各メーカーでは、取付後の不意の破損(自然爆裂)を減少させるため、再加熱を行なって変化を促進させ、α-NiSが残留している強化ガラスを人工的に破壊させてしまう試験を行なっている。この試験をヒートソーク試験(熱処理試験)と称している。
ヒートソーク試験の条件や対象品種はメーカーにより異なるが280〜300℃で60〜140分の加熱を行っている。しかし、完全ではないため、採用する部位によっては落下防止や飛散防止の対策をしっかりと行なう必要がある。
(竹中工務店 設計部 豊永秀男)
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