■第73回■ リスクマネジメント

 2001年9月11日(9.11)のニューヨークのワールドトレードセンター(WTC)の事件により、建築施設もテロ攻撃の対象である事をあらためて認識させられた。WTCは1993年にも爆弾テロの被害をうけており、その後にリスクマネジメントの考えが導入され、9.11の攻撃では、短時間のうちに就業人口5万人といわれる二棟の巨大なビルから、かなりの人が避難できた。しかし、テロの直撃をうけた人とその後の火災、そして十分避難できた人のうち、そのリスクに対する誤った認識により、攻撃後もそのまま仕事を継続し、構造上の問題から引き起こったビル全体の崩壊にまきこまれ亡くなった人が多くあつた事に心が痛む。
 建築の評価、戦略・計画立案を行うファシリティマネージメント(FM)業務のひとつとして、リスクマネジメントが再度注目されている。日本においてはテロだけではなく、1995年の阪神・淡路大震災の経験により、自然災害によるリスクの認識がたかまった事が大きい。そのなかで「建築物の耐震改修の促進にかんする法律」が導入された。これは「特定建築物」(階数3階以上延べ面積1000u以上の学校・病院・事務所等)の所有者に、耐震診断と耐震改修を行う「努力義務」を課すものであるが、その実状として、学校においては診断・改修の予算がつかない事等を理由とした、努力の怠りが再三報道されてきた。また、都市災害レベルにおいても、いったんおこってしまった災害にたいして、的確な対処を行うための危機管理マニュアルの作成と具体的な運用の検討も震災後10年を経過しても遅々として進んでいない。都心再生のもと、首都圏東京の一極集中が再び進んでいる。リスクマネジメントの意味をあらためて認識する必要があると思う。


 [安井建築設計事務所 水間 茂]