■第90回■ 伝統木造

 近年、木の持つぬくもりや癒し効果が評価され、木造建築が注目されています。なつかしさも手伝って、古民家や京町家が再生され、レストランや店舗として利用されています。これらの建物は柱・梁仕口に金物を使用せず、ほぞ等の木組みで接合する、日本古来よりの伝統的な構法を用いて、熟練した大工により建てられており、「伝統木造」と呼ばれています。
 一方、多くの木造住宅は、「伝統木造」に比べて細い柱や梁を使用し、金物により柱・梁を接合して、壁に筋違いを入れています。「在来軸組構法」と呼ばれるこれらの建物は、腕のいい大工や太い木材を必要としないため、戦後、急速に普及していきました。
 「伝統木造」、「在来軸組」とも、昨今の防災意識の高まりから耐震診断・耐震補強されるケースが増えていますが、地震に対する建物特性が考慮されているか疑問です。筋違いがある「在来軸組」は建物の耐力で地震に抵抗し、土壁を持つ「伝統木造」はしなやかに変形して地震を受け流すという建物特性を持っています。にもかかわらず、木造建築の耐震診断は建物耐力による検討のため、「伝統木造」であっても筋違いや金物を入れて耐力を上げる耐震補強が多く行われているのです。
 しかし、最近、「伝統木造」の変形性能が評価できる診断法が提案されました。今後は、「伝統木造」がこの診断法で適切に再生されることを期待しています。

[建築情報センター委員会 坪根正幸]